トップメッセージ Sustainability

本質的価値を追求するブランドアイデンティティで、
ゴールドウインをグローバルに拡張し、
地球環境の再生を通じた
持続的企業価値向上を実現していきます。

代表取締役社長のポートレート写真
代表取締役社長
渡辺 貴生

令和6年能登半島地震から復旧・復興の途上にある能登半島を中心とした地域に、令和6年9月の豪雨により甚大な被害が生じました。亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。被災された皆さまのご無事と、救援活動にご尽力されている方々に敬意を表すとともに被災地の一刻も早い復旧・復興を心からお祈り申し上げます。

自然界の「循環の一部」としての自覚を持って

2024年6月、サンフランシスコ近郊のヨセミテ国立公園を10年ぶりに訪れました。豊かな自然が多様な生態系を育むこの地は、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」のロゴのモチーフになっており、私にとっても思い出深い場所です。大自然の雄大さを前に心身が覚醒し、自らの仕事の意義やゴールドウインの使命について、多くのアイディアが湧き上がってくるのを感じました。

現在、ウクライナや中東・東アジアでの地政学リスクの高まりが、人間の間での対立を浮き彫りにしています。植民地主義やグローバルサウスの問題など、歴史の中で繰り返されてきた収奪の構図は、自然と人間の間でも顕著です。地球上のすべての生態系は精緻な循環のもとで成り立っており、人間も本来自然の一部ですが、私たちは自然を人間とは切り分け、収奪してきました。今日この考えを改め、自らも循環の中に組み込まれた存在として、行動を見直すべき時を迎えています。人類全体での協力が必要な大きなテーマですが、いちスポーツアパレルメーカーである当社にもできることがあります。

Regeneration

1980年代に私は、「ザ・ノース・フェイス」の創業者から「Make a Difference」という教えを受け、他とは異なる価値を追求し続ける重要性を学びました。創業70周年となる2020年には、創業100周年を見据えて若い社員とゴールドウインの未来を議論し、地球環境を再生(Regeneration)するビジネスで圧倒的な差別化を図ることを導き出しました。これが長期ビジョン「PLAY EARTH 2030」です。「PLAY EARTH」という言葉には、スポーツの起源となる自然の中での「遊び」に立ち返り、社会・環境課題の解決に向けて世界の協調を目指す想いを込めています。

長期ビジョンの最初のステップが、前中期経営計画(2022年3月期~2026年3月期)です。当社の成長を牽引してきた「ザ・ノース・フェイス」は今後も中核ブランドであり続けますが、日本と韓国以外では商標権の制約を受けます。当社の持続的成長のためには海外への挑戦が不可欠であり、同計画ではオリジナルブランド「ゴールドウイン(Goldwin)」のグローバル展開を一丁目一番地と位置付けました。この中で「Goldwin 0」は、地球環境の再生に向けて「Circulation(循環)」「Borderless(越境)」「Co-Creation(共創)」という3つのコンセプトを掲げ、海外市場で差別化していく可能性を示しました。

Spiber株式会社との協業は、これを形にしていくための重要な取り組みです。6年間をかけて共同開発した新たな循環型素材「Brewed Protein™」は、2021年3月から量産を開始しました。2023年秋には「Brewed Protein™」を素材とする製品を、4つのブランドで一斉にグローバル展開しています。

先進国で不要になった衣服はアフリカや南米などに輸出され、売れ残りが投棄されて環境に甚大な影響を与えています。こうした状況がメディアで報じられ、Z世代の若者たちが大量生産と使い捨て文化を変えようと動き出しています。「Goldwin 0」は、こうした新しい価値観を理解し、共感を集めることにより、人々の支持に強い手ごたえを掴むことができました。

Goldwin500

2024年3月期は、2期連続で過去最高の売上高、営業利益を更新しました。これまでの投資がブランドへの支持につながり、実需型ビジネスモデルの磨き上げが功を奏した結果と捉えています。ただ、足元での衣料品市場の回復は、外国人旅行者などによる客単価上昇の影響が大きく、一般生活者の消費回復は鈍い状況です。こうした経営環境を踏まえながら持続成長を続けるため、2024年7月、新中期経営計画(2025年3月期~2029年3月期)を発表しました。このグローバル戦略を「Goldwin500」プロジェクトと題し、ゴールドウインブランドのグローバル拡大を加速させ、10年後までに売上高500億円を目指します。

中国では気候変動対策が国策として進められ、消費者の環境意識が急速に高まっています。「Brewed Protein™」の製品発表会には業界を超えて多くの方が来場され、環境問題への関心の高さを実感しました。新しいテクノロジーの普及速度が速く、富裕層も多いため、プレミアムブランドのポテンシャルが高いのが中国市場です。「Goldwin500」では、ゴールドウインブランドの海外売上高比率を80%に拡大し、そのうち60%を中国市場で達成する計画です。中国、韓国、日本の3カ国で出店を加速し、ブランドポジションの早期確立を目指します。一方、ヨーロッパや北米では、まずはブランド認知と世界観の確立に注力し、慎重に進めていきます。

ゴールドウインブランドに経営資源を集中するため、「ダンスキン(DANSKIN)」「エレッセ(ellesse)」「241(トゥー・フォー・ワン)」「ブラック&ホワイト(BLACK & WHITE)」の事業撤退を決定しました。その一方、「Allbirds®(オールバーズ)」を展開するAllbirds, Inc.と日本国内における独占販売契約を締結しました。環境配慮への価値観を当社と同じくするブランドであり、当社のビジネスインフラの活用で大きなシナジーを期待できると考えています。

また、海外事業を推進するための人材採用と育成も強化します。オペレーションの現地化のため、現地採用を積極化するとともに、社内では海外で活躍する意欲のある人材を支援するプログラムを導入しています。

ゴールドウインのグローバルでの認知拡大・プレゼンス向上に向け、CI(Corporate Identity)とBI(Brand Identity)の一体化とパーパスの刷新も行いました。そこには、創業の精神の継承への強い意志を込めています。

本質的価値

「目に見えるところは誰でも気を付ける。しかし見えないところに細心の注意を払うのがメーカーの良心だ。」という創業者・西田東作の言葉を私はとても大切にしており、海外への展開も視野に入れ「Dedication to detail」と訳しています。この言葉の真意は「本質的な価値の追求」にあります。素材へのこだわりや、長く使えるような丁寧な縫製・加工技術など、表面からは見えないモノづくりの側面、お客さまの新しい挑戦や環境に配慮した生活などによって、ご自身を高めていくことをサポートするという見えない価値などがここに含まれます。

実需型ビジネスモデルは、効率的な在庫管理により当社の高収益性を支えてきた強みとなっていますが、この根源的な目的は「お客さま視点でのモノづくりと店づくり」です。「ザ・ノース・フェイス」などのブランドは、163店の直営店をはじめとする自主管理売場での丁寧なコミュニケーションのもと、支持を得てきました。「本質的価値」を備えた製品は、過度にアイテム数を増やす必要がなく、流行に左右されずに長く使えるため、お客さまにも環境にもメリットがあります。当社にとっては在庫や値引きの抑制となり、本質的価値の追求が「事業のサステナビリティ」と「環境のサステナビリティ」の両立を可能にしています。

私たちは本質的価値を提供するプレミアムスポーツブランドとして、自然との調和をテーマに、日本の美の伝統的な作法である繊細、丁寧、緻密、簡潔を表現し、挑戦する人々に寄り添ったブランドアイデンティティを築き上げていきます。2021年にオープンした「ゴールドウイン 北京(Goldwin Beijing)」や、インバウンドのお客さまの反応からも、本質的価値は国境を超えて支持されると実感しています。

創造性

「ザ・ノース・フェイス」の売上高は直近10年間で約5倍に成長しましたが、ライフスタイルや女性・キッズなど、まだまだ多くの成長余地があります。特にスポーツシューズは、日本だけでも4,000億円の市場規模がありながらも、当社の売上高は60億円程度に留まっています。この分野でも当社は、本質的価値の提案によって差別化を追求していく考えです。シューズはデザイン性に加え、歩きやすさや疲れにくさといった機能性も求められます。これらを兼ね備えた「ザ・ノース・フェイス」らしい製品を提案することで、ブランドの存在感をさらに高められると確信しています。

本質的価値を生み出すためには、常識を疑い、イノベーティブな視点で物事を捉える「創造性」が要求されます。当社の社員は真面目でオペレーション能力が高い一方、創造性に関しては強化の余地があります。創造性は個人のセンスに依存すると言われますが、それを磨くことは可能です。製品では機能とデザインを高次元で融合するセンス、店舗表現ではブランドの世界観を正しく伝えるための編集と演出の感性が求められます。この2つのセンスを備え、高い創造性を発揮できる人材が増えれば、ゴールドウインの本質的価値は持続的に向上していきます。

人材採用においても、主眼を置くのが創造性です。学歴や国籍、性別を問わず、独自の発想をビジネスに活かせる人材を当社では求めています。ユニークな発想を尊重し、創造性によって他にはない価値を生み出していくのが当社のあるべき企業文化であり、本質的なダイバーシティだと考えています。

地球環境の再生を企業としての責任に

私はほとんどの週末を自然の中で過ごしますが、気候変動による変化を肌で感じています。水温上昇による魚の活動性低下や、人間の居住域に現れるクマの被害など、自然はさまざまな「警告」を発していると感じます。人間の視点からの「サステナビリティ」では、もはや地球環境の破壊を食い止めることはできません。当社は環境負荷の低減に留まらず、地球環境の再生を目指したポジティブインパクトを明確に目標化し、「サステナビリティ」に魂を宿していきたいと考えています。

「GOLDWIN PLAY EARTH PARK(ゴールドウインプレイアースパーク)事業構想」は、その象徴的な取り組みです。自然の素晴らしさを体感してもらい、共感を広げるコモンズ(共有地)としての役割を担い、地域社会と自然への責任を果たしていきます。日本は豊かな自然と四季を持つ美しい国ですが、その魅力に気付いていない人も少なくありません。自然を楽しむ需要の拡大は、新たな経済効果にもつながると考えます。

地球環境の再生には、事業パートナーだけではなく、価値観を共有するお客さまや株主・投資家の皆さまともパートナーシップを築き、共創していく必要があります。「Goldwin500」をはじめとする成長戦略を確実に遂行し、信頼を積み重ねながら、地球環境の再生に本気で挑戦する当社に共感していただけるパートナーの輪を広げていきます。

2024年10月

代表取締役社長
渡辺貴生