「変わらない価値があるから、変革できる」開発・生産責任者の視点Goldwin Voices

取締役CRDO・常務執行役員 新井 元

2025.09.26

2025年6月、当社の未来を牽引する開発本部とゴールドウイン事業本部、2部門の責任者が取締役に就任しました。連載2回目はそのうちの1人、開発本部担当の新井元が、スポーツアパレル開発の土台となっているマザーファクトリー・富山本店の役割りと展望について語ります。

Index

開発本部が各ブランドの成長を牽引する

「開発本部が“導線”となり各ブランドを繋いでいく。これが私の担う役割です」と開口一番、新井は発した。当社のモノづくりの根幹を担う富山本店。新井は、その開発・生産拠点を統括する立場にある。1991年に入社後、渡辺貴生(現、代表取締役社長CEO)のもとで、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」を有力ブランドに押し上げる一翼をになった。その後、オリジナルブランド「ゴールドウイン(Goldwin)」を刷新、ゴールドウイン事業部長として製品開発にあたった経歴をもつ。

当社が「ゴールドウイン」ブランドを立ち上げたのは1958年のこと。そこから長らくスキーウエアの開発に力を入れていた時代があった。スキーウエア開発で培った技術力とデザイン力が、今の「ザ・ノース・フェイス」の機能性につながっているとも言える。ただ、1990年代にピークを迎えたスキーブーム終焉とともに、「ゴールドウイン」ブランドも一時の勢いが弱まっていった。入れ替わるようにアウトドアブームが到来し「ザ・ノース・フェイス」が拡大したという経緯がある。新井は10年以上前からこのスキー領域のブラッシュアップに力を注ぎ、革新的な製品を生み出してきた。

見えないところにこそこだわりを持ち製品をつくりあげる

「たとえば、私のお気に入りのウィンドシェルジャケットがあります。一般的に防風性を目的とするアウターがマーケットには多いのですが、そのシェルジャケットは通気性がある生地をあえて使っています。何がいいかというと、ウィンドシェル的要素を持ちながらTシャツやカットソーのように軽い着心地とあえて少し通気させることで、衣服内にムレ感のない快適な着心地にこだわった……つまり、新たなシェルジャケットの領域をつくろうと考えた、私のなかではコダワリのある企画製品です。さらには、超音波溶着シームという接合技術を使って縫い目のあたりを軽減する縫製仕様になっています。通常の製品にあるような縫製部分がないため、非常に快適な着心地を実現している。よって、しつこいようですが、シェルジャケットでありながら、カットソーやトレーナーのように使えるわけです。使い方を変化させるという提案や発想は、かなりイノベーティブなことだと思っています。……あ、かなりマニアックな話になりましたね(笑)」(新井)

繊維設計や縫製技術の話になると目を輝かせ止まらなくなる自身のことを、新井は「マニア」と称する。新井のこの姿勢は、ゴールドウインのモノづくりの根幹にも通じるようだ。

「当社のモノづくりは、一言で言うと“緻密に計算されたシンプルな美学”。機能の美学とも言える。見えないことにこそコダワリを持ちながらつくる。見た目はシンプルでも、そこに込められた技術や哲学は、何層にも重なっている。これが製品の価値になり、当社の強みとなっています。ここを深堀していきたい」(新井)

実際、新井はゴールドウイン事業部長時代、「機能的でシンプル」な製品開発で新たな市場を開拓した経験がある。その象徴的な取り組みの1つが、防水透湿性、防風性を兼ね備えた高機能素材GORE-TEX®(ゴアテックス)(※)をスキーウエアに導入したことだ。

「当時のスキーウエアの主流は、装飾をゴージャスにすることで付加価値を付けていました。でも私たちは質実剛健、機能的でシンプルで、スキーだけでなくバックカントリーやアウトドアシーンなどでも自由に使える製品にしたいと考えました。ゴアテックス素材を使いつつシンプルな形にした、スキー用アウタージャケットで10万円超の価格帯。このチャレンジングな製品で機能美の価値をお客さまに理解していただき、受け入れられた。新しい市場をつくることができると確信した瞬間でした」(新井)

生産現場では、緻密な手作業も行われる

ブランド価値の根幹を支える「マザーファクトリー」

1990年代、国内の多くのアパレル企業が海外生産にシフトしているなか、ゴールドウインは富山本店という国内の「マザーファクトリー」を堅守している。「富山本店があるからこそ、私たちは見えない価値をつくり続けることができる」と新井はいう。富山本店は、素材開発・検証から、パターン設計、縫製、サンプリングからリペアまで集約された総合的なモノづくりの拠点だ。2023年4月に開発本部長に就任してから、新井は月の半分以上この富山本店にいる。

ゴールドウイン富山本店内「GOLDWIN TECH LAB(ゴールドウイン・テック・ラボ)」品質検査室の様子

「製品が世の中に出る前の数年と、お客さまの手に渡ってからの数年。両方の時間軸においてお客さまとコミュニケーションがとれる場所は、なかなかありません。富山本店内で、先進的な基礎研究によってまだこの世に存在しないものを開発し具現化する。さらには、富山本店内のリペアセンターに送られてくる、お客さまが数年使った製品を目の当たりにします」(新井)

ザ・ノース・フェイス事業が飛躍的に成長してきた過程では、富山本店に非常に多くの設計業務の依頼があり、日々フル稼働で業務を完了することに邁進する状況があった。この状況のなか「少し受け身になっていたのではないか」と新井は考える。今後の富山本店は、より革新的な製品開発を行うパートナーとして、「ゴールドウイン」ブランドの成長性をサポートする役割が強く期待されている。

「受け身で製品をつくるのではなく、より積極的に能動的に提案し、技術開発力を高めることで各ブランド事業サイドにも製品づくりによい緊張感を与える。高難易度の要求にも対応できる、より美しく機能的な製品をつくることができる組織として富山本店から提案していく状態にしたいと思います」(新井)

新井は、高度な専門性と高い志を持った職人を言い換えて「マニアだよね」と笑う。

「私自身、ともに仕事をしている繊維業界やファッション業界の方々にマニアだとよく言われます(笑)。富山本店のみんなにもマニアになって欲しいんですよ。アウトドアやスポーツのマニアとして、遊びと仕事の境界線なく熱中して深堀りできたら最高ですね。素材や機能に異常にこだわる、そんなマニアックな感性を持った人たちが、ここ富山でじわじわと育ってくれるといいですね」(新井)

日本のモノづくり企業の多くが課題にあげる技術やノウハウの継承は、富山本店でも重要な課題の1つだ。3〜5年後には世代交代の波がくる。熟練の職人たちの技で成り立っている縫製の現場などでは、その技術を「次の世代につなぐ仕組みをつくらなければならない」と新井は意気込む。

「工程の一つひとつに高度な専門性が求められます。富山本店で働く人々はいわば、職人集団。開発本部の責任者になって以来、全員が高い志を持ったプロフェッショナルになれるように声がけをしています」(新井)

リペアの工程では、とくに熟練の技術が必要とされる

さらに、新しい感性を持った人材の登用、採用による現場の活性化や新たなものを生み出すための設備投資も同時に進める。

「量産につながる生産性向上ではなく、研究開発の知見を高め、それを生かす場をつくっていくための設備投資を行いたいと考えています。価値を売る会社にならないと生き残ることはできない。そのために必要な改革を行っていくつもりです」(新井)

運動研究室内で、風環境を再現し、試作品のテストを行う

「徹底的にやり続ける」新素材の開発

環境配慮型のモノづくりの取り組みも、新井の重要なミッションだ。実際、コーポレートベンチャーキャピタル「Goldwin Play Earth Fund(ゴールドウイン プレイアース ファンド)」から新たなサステナブルを考えた素材開発を行うスタートアップへ投資を行うなど、環境負荷の低い素材開発は当社の重点課題の1つとなっている。

「将来に向けた新素材の開発はここ1年の間でも同時多発的にスタートしています。正解が見つけにくいなど、簡単な取り組みではありませんが、5年後、10年後のために今、動かなければなりません。今、スタートを切った結果、5年後、10年後には、間違いである可能性ももちろんあるでしょう。ですが、正しい道を探しながら、間違っていたら修正する。そうやって方向性を見極めながら進むスタンスが大事だと考えます。

環境配慮型のモノづくりはできる限りでやるのではなく、徹底的にやる。環境に配慮した素材を使っているから良い製品ではなく、美しく機能的であることも同時に追求する。イノベーティブな製品開発は、すぐに理解されなくても、未来のお客さまによってその価値が評価されるときが必ずきます。グローバルに闘える競争力が高い日本企業として当社が成長し続けるために、研究開発拠点、富山本店から“まだ見ぬ価値”を提案し続けます」(新井)

新井元(あらい・げん)

取締役CRDO*・常務執行役員
1991年4月当社入社。コンプレッションアンダー事業部長、ゴールドウイン事業部長、グローバル本部ゴールドウイン事業部長を経て、常務執行役員開発本部長に就任。得意なスポーツはスキー。休日も登山やランニングなどアクティブに過ごす。最近購入したカメラで、山や自然の風景を撮りに行きたいと考えているところ。

記載内容・役職や所属は取材時点の情報です。
また、当記事は、株主・投資家の皆さまに当社をご理解いただくことを目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。

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