
山岳旅行会社「アルパインツアーサービス株式会社(以下、アルパインツアーサービス)」(2025年4月子会社化)での、長年の国内外での登山やトレッキングの企画販売・引率業務を経て、2020年から当社総合企画本部マーケティング部でコト事業を進めている藤村充宏と北島聡之の2人。当社のコトづくりの転換点となった「PLAY EARTH」プロジェクトについて振り返った前編に続き後編では、ゴールドウインがなぜ環境省とともに日本の国立公園の課題に立ち向かうのか、その背景や連携によって期待できることについて語ります。
「PLAY EARTH」プロジェクトについて振り返った前編「山岳ツアーのプロ2人が語る、「モノ」と「コト」の交わりが生む新事業の推進力」はこちら
環境省で見た国立公園の今
当社が国立公園に深く関わるようになったきっかけは、故・加藤則芳(2013年没)氏抜きには語れない。日本のロングトレイルの第一人者であり、国立公園の制度にも精通していた加藤氏は生前、日本各地の国立公園に足を運びながら、後世に豊かな自然環境を残してゆくために、保全と利用の観点から向き合うべき課題について、各方面への提言を続けた人物だ。
藤村と北島の憧れの人であり、当社代表取締役社長CEOの渡辺もまた、加藤氏に感銘を受けた1人。「日本の国立公園の魅力をもっと伝えたい」という強い思いのもと、当社が環境省と「国立公園オフィシャルパートナーシップ」を締結したのは、2020年のことだ。北島は2023〜2024年の2年間、環境省に出向し国立公園の魅力発信や利用促進にあたった。
北島
加藤さんは国立公園制度の先進地であるアメリカの国立公園を度々訪れるなかで、国立公園が自然保護区として重要であるだけでなく、国民にとってもかけがえのない場所として大事にされていることを実感したそうです。一方、日本では国立公園が存在しているにもかかわらず、国民の間に十分に浸透していないのが現実です。日本では、国、自治体、民間の土地をまたいで国立公園が設定されているため、一元的な管理が行えないなど、アメリカと事情が異なる面もあります。そのようななかでも、日本の国立公園の素晴らしさを広めたいとご尽力されていらっしゃいました。

北島は山岳ツアーなどツアーコンテンツ開発の経験を生かし、環境省の国立公園の利用促進を進める部署(環境省 自然環境局 国立公園課 国立公園利用促進室)で、それぞれの地域特性に沿ったアクティビティや体験型コンテンツを提案し、地域資源の本質的な魅力を伝えるプロモーション活動を行なった。
北島
日本の国立公園はアメリカのように、国が一括して敷地を保有しているわけではありません。国や自治体の土地もあれば民間の土地もある。国立公園の保全や利用は、国だけでなく関連するさまざまなセクターや地域の人々と、ともに考えていかなければならないことなのです。そして体験コンテンツづくりにおいては、観光関連事業者だけでなく、地域に暮らす方や来訪者にとってプラスになること、またそれによって地域の自然や観光資源が守られてゆくことを同時に実現していくことが、非常に大事だと2年間の経験を通して感じました。環境省の職員として、地域の方々にご協力いただいて、国立公園を舞台にしたその場所ならではの体験コンテンツづくりに関われたことは今に続く貴重な経験でした。
藤村
北島が出向して地域の課題や国の取り組みに触れたことで、ゴールドウインとしてのコト事業を進めるうえでの知見が、確実に深まったと実感しています。

暮らしや文化を「体験」に落とし込む
国立公園パートナーシップ締結から2年後の2022年には、国立公園の持続可能な保全と利用の実現に向けたプロジェクト「National Parks of Japan」を開始。日本各地の国立公園を舞台に、持続可能な観光とアドベンチャートラベルをテーマにしたさまざまなツアーを展開してきた。「National Parks of Japan」として国立公園を巡るツアーを、月1本のペースで企画している。

たとえば2025年10月に催行した釧路湿原国立公園を舞台にしたツアーでは、豊かな自然と酪農や林業が織りなす美しい景観が広がる鶴居村を起点に、地元ガイドとめぐるトレッキングや釧路湿原でのカヌーといったアクティビティ、特産品のチーズ作り、地ビールなどを味わい、つくる体験を通じて、「水」の循環や恵みを体感できるツアーを実施。地産地消のコト体験を通じて、参加したお客さまにその地域のファンになってもらうことを目標にして、今後もさまざまなツアーを計画していく予定だ。
ツアーの企画だけでなく「National Parks Collection」として、国立公園を各エリアにわけて、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」、「ゴールドウイン(Goldwin)」、「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」といった各ブランドのTシャツ、エコバッグ、キャップを販売。リサイクルポリエステル、オーガニックコットンなど環境に配慮した素材を使用し、売上げの一部は国立公園エリア保全管理のために寄付をして、国立公園の持続可能な保全と利用の実現を目指している。

北島
加藤氏は、「自転車は速すぎる、車はもっと速すぎる。歩くことでしか得られない気づきや出会いがある。」とよく口にされていました。ツアーを企画するとき、なぜかこの言葉が浮かんできます。
藤村
「National Parks of Japan」のキャッチコピーに「国立公園を巡る”冒険”の旅へ」とあります。自分の足で歩いて、自分だけの宝物を見つける旅を国立公園でしてほしい。自分だけの宝物、それは人によっては景色、あるいは人や動物との出会い、新しい自分の発見かもしれない。そうやって、次世代を担う子どもたちの未来につないでいきたい。人間は自然の一部、どうやったら自然と一体となれるかを考えながら、我々ももっとゴールドウインらしいコトづくりを追求していきたいと考えています。
次世代を担う子どもたちの明るい未来の実現を目指すコトづくりのひとつが、神奈川県・箱根町との地域活性化に関する包括連携協定に基づき開催されている、小学3年生から6年生を対象としたアウトドアイベント「HAKONE TOWN×GOLDWIN KIDS SUMMER CAMP」だ。富士箱根伊豆国立公園の芦ノ湖とその周辺を舞台に、キャンプやハイキング、星空観察、水の安全教室、箱根寄せ木細工ワークショップといったさまざまな体験プログラムが盛り込まれた、この子ども向けサマーキャンプは2025年7月で4回目の開催となった。

藤村
子どもたちが初日に見せる少し不安そうな表情から、帰りに見せる自信に満ちた表情への変化がとても印象的です。2泊3日で、逞しくなって帰っていくんですよ。私たちもチーム一丸となって取り組んでいて毎年、新しい発見があり、運営チームの成長にもつながっています。
北島
箱根町の派出所の警察官や漁協組合の方々などサポートがあり、保護者の方には安心感を持っていただけています。さらには、エベレスト登頂の経験を持つプロスキーヤーで医学博士でもある三浦豪太氏にこの企画の校長先生として就任いただいていることもあり、まさに、“ゴールドウインならではのキャンプ”とも言っていただけています。子どもの頃の感動は強く心に刻まれます。豪太氏と一緒に歩くネイチャーウォークや冒険講座は、子どもたちにとって忘れられない夏の思い出となっているようです。
藤村
このイベントは、参加する子どもたちの半分が箱根町在住、そしてもう半分ほどは、箱根町以外の首都圏在住です。ビジターセンターで箱根町の自然についての説明に首都圏から来た子どもたちが驚き、興味津々になる。その様子を見た箱根町に住む子どもたちは地元の自然の良さを再認識して、鼻たかだかで説明している姿も印象に残っています。地元の箱根町から参加する子どもたちには大学進学や就職で地元を出てからも、子どもの頃に親しんだ自然に誇りを持ち続けていて欲しいなと思います。首都圏から参加してくれる子どもたちにはリアルな自然体験を大人になっても忘れないでほしいと願っています。
モノだけでは伝えられない価値をコトで伝えることの大切さを、子どもたちの笑顔から学んでいる気がします。私は、祖父が山にイノシシ狩りに行くのについていって、幼少期から当たり前のように山登りを始めました。ただ、周囲にそういった人がいなければ、なかなか一歩を踏み出せないものだと思います。
北島
私も親と行った山々が人生に影響を与えています。コト事業は、フィールドや新たなチャレンジへの一歩を踏み出すための手助けでもあると思います。体験を提供することで自然が好きな人が増えたり、地球環境に興味を持って自然を大切にしようという気持ちが芽生えたり、自然を守る輪へとつながるとうれしいですね。体験を通じて自然への敬意と次のアクションが芽生える。体験は価値観や行動を変えるスイッチになると考えています。
社内リソースを結集させて挑むコト事業
インバウンド旅行者で、富士山や長野県の白馬、北海道のニセコなどが混み合う一方で、まだ光の当たらない国立公園や地域は多い。藤村と北島が描くのは、自然とアクティビティや文化体験を組み合わせて楽しむ旅のスタイル「アドベンチャートラベル」の力で知られざる地域の魅力に光を当て、来訪者を増やし、地域創生につなげることだ。そのひとつの例として、藤村は2021年に地域活性化に関する包括連携協定を結んでいる北海道・斜里町を挙げる。
藤村
知床自然センターのなかに当社のフィールドショップ「THE NORTH FACE / HELLY HANSEN 知床」があります。冬の間、知床横断道路は封鎖されるため、知床国立公園内の店舗は年間を通した大勢の集客は見込めません。それでも、フィールドとの深い関わりが生まれる場として、モノを売ること以外の価値を見出し店舗を置いています。店舗のスタッフが積極的に地域の環境保護活動に参加したり、子ども向けのワークショップを開催したり、また、地元のステークホルダーと連携してさまざまな情報を発信してきたことで、観光で訪れるお客さまだけでなく、自治体や周辺にお住まいの方々とのコミュニケーションが生まれています。

アスリートや町民の方々との交流を通じて知床の魅力を発信したり、チャリティTシャツを製作・販売したり、知床自然教室のサポートや首都圏で知床をテーマにしたワークショップを開催。知床の西側を有する斜里町の主要産業の1つである漁業を盛り上げるため、漁師専用のジャンパー、フリース、カッパを「ヘリーハンセン」でサポートしたほか、斜里町役場の職員のユニフォームは「ザ・ノース・フェイス」がサポートした。
藤村
社内の豊富な人材やリソースを活用して、自治体も当社もウィンウィンの事業にする。これがコト事業を持続的なビジネスとして成長させるカギになると考えています。そういった点から考えても、当社グループにツアー会社のアルパインツアーサービスが加わったのは大きな力になります。
アスリートとのパートナーシップを通じて得られたフィードバックと、長年の歴史で培われた技術的なノウハウを融合させた高機能なモノづくり。ここに新たに加わった、真摯にコトづくりに向き合ってきた藤村や北島、アルパインツアーサービスのメンバーによってコト事業のノウハウが蓄積され始めている。“当社らしいモノ事業とコト事業の融合”の根幹はここにある。
藤村充宏(ふじむら・みつひろ)
1974年生まれ。登山ツアーの専門旅行会社勤務を経て1999年からアルパインツアーサービス株式会社で国内外のトレッキングツアーの企画、販売、引率などに携わる。2021年当社入社、マーケティング部フィールドイベントチーム、2022年PLAY EARTH事業部、2023年PLAY EARTH事業グループ、2025年マーケティング部イベントグループでコト事業を推進。祖父に連れられ、イノシシ狩りや海釣りなど活発な幼少期を過ごし、学生時代にはカナダやアメリカの国立公園をキャンプで巡る一人旅や、モンブランやキナバル山などの山に登るなど、アウトドアにどっぷり浸かった生活を送る。アルパインツアーサービス勤務時代には30カ国近くの山旅をご案内した。最近は季節の移り変わりや身近な自然との触れ合いを大切にしながら近所でのウォーキングや神社仏閣を巡ることに楽しさを見出している。

北島聡之(きたじま・としゆき)
1981年生まれ。登山ツアーの専門旅行会社勤務を経て2008年からアルパインツアーサービス株式会社で国内外のトレッキングツアーの企画、販売、引率などに携わる。2021年当社入社、マーケティング部フィールドイベントチーム、2022年PLAY EARTH事業グループ、2023年環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室出向、2025年当社に戻りマーケティング部イベントグループで藤村とともにコト事業を推進。親の影響を受け、高校時代から本格的に登山をはじめる。大学2年の時にオリエンテーリングの世界ジュニア選手権に日本代表として出場。登山に限らず、自然を感じるための手段として様々なアウトドアアクティビティを家族や友人と日々楽しむ。

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