
機能美を追求し素材からこだわり抜いた「モノづくり」で事業を拡大してきた当社は今、「コトづくり」そして「環境づくり」へ、人間も自然もより豊かになる可能性を探求し始めています。「環境づくり」に向けた取り組みの第一弾として、2027年初夏オープンを目指し、創業の地である富山県で開発を進める「Play Earth Park Naturing Forest」。その現場でゼロから場づくりにあたる、株式会社PLAY EARTH PARKの専務取締役・野村一哉と取締役事業本部長 兼 管理部長・斎藤洋史の2人が現場の思いや葛藤、手応えを語る前後編。
後編は、「蛾のワークショップ」など具体的なプログラムや場づくりの現場にフォーカスしながら、ゼロイチで「Play Earth Park Naturing Forest」をつくる2人の取り組みについて掘り下げていきます。
2人のキャリアや価値観を軸に、「Play Earth Park Naturing Forest」の本質に迫った前編「10年先も30年先も選ばれるゴールドウインになるために、モノづくりの会社が環境づくりに邁進する理由」はこちら
森を再び「生き物のゆりかご」に
日本の国土面積のうち約3分の2が森林で、そのうち約4割は人工林だ。つまり、もともと自然の森だったところに人の手が入り、平地部分は田畑として利用されてきた。高齢化で林業や農業従事者が減少し、間伐などの手入れがされずに放置された放置人工林や耕作放棄地の増加は日本の各地域で課題となっている。「Play Earth Park Naturing Forest」を建設中の富山県南砺市の約40ヘクタールの土地もまた例外ではない。「人の生活のために人工林になり田畑になった土地をもう一度、多様な生き物が暮らす森に戻していきたい」と野村は意気込む。
「Play Earth Park Naturing Forest」は、世界的に評価の高い設計者8組による遊具のような建築を中心に設計している。さまざまな生物が共生する自然界に学びデザインされたガーデン、それに隣接するヴィラやキャンプサイト。人々が集う拠点となる「プラザ棟」には、自然遊びのためのウエアやギア、地元の食品を販売するショップを併設する予定だ。ただ、単なるレジャー施設ではない。
「子どもたちは『こんな昆虫がいるんだ』と驚き、大人たちは人の暮らしが中心の世界観ではなく、『自分たちの暮らしが自然にどう影響しているか』を身体で感じる場所になる予定です」(野村)

海でも山でも、「体験」がブランドとの接点になる
体験プログラムは、当社が持つさまざまなブランドと結びつくきっかけにもなる。
「たとえば、湿地や池など水辺のエリアでは『ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)』のライフジャケットを活用したプログラムができるかもしれません。カヌーをするとなれば安全のためにライフジャケットが必須になりますよね。
ヘリーハンセンはまさに、水辺でのアクティビティをサポートするモノづくりに強みを持っているブランドです。体験をきっかけに、その品質や安全性を実感してもらえれば、『今度、海に行くときも、あのライフジャケットを使いたいね』『ヘリーハンセンのお店に行ってみようか』という会話が生まれるかもしれません。そういった接点を用意していきたいと思っています」(野村)

フィールドがあることで、お客さまに新製品を使っていただきリアルな反応をヒアリングすることもできる。その結果をモノづくりにフィードバックすれば、見えないニーズに応える製品開発につながっていく。既存の製品だけでなく、自然のなかで心地よく座れる、ゆっくり本を読めるような家具などアウトドアで過ごす時間のなかにどういった道具があると豊かになるのかという体験によって、暮らしを考えるきっかけにもなる。環境保全に取り組む場があることで、環境に対する姿勢を当社従業員自身が自分ごととしてとらえやすくもなるだろう。
「ゴールドウインの世界観や技術を、体験を通じて感じてもらえるように設計していきたいですね」(野村)
「昆虫が苦手」な子どもが、蛾の美しさに気づく日
体験プログラムは単に楽しいアクティビティだけでなく、子どもたちの行動や価値観が少し変わるような「仕掛け」も準備する。そのヒントとなったのが、昨年夏に富山県南砺市で開催したワークショップイベント「Moth Hunt Club(モスハントクラブ)」だ。
「小学校低学年くらいまでの子どもは、意外と蛾に抵抗がないんですね。でも高学年になると、『蛾は気持ち悪い』というイメージが先行してしまう子が増えます。年齢を重ねるなかで、一般論として『蛾は気持ち悪い』という情報が入ってくると、子どももそう思うようになるでしょうし、反対に『美しい模様だね』『蝶よりも種類が多いんだ』といったように興味、関心を向けると子どもも自然とポジティブに受け止めるものです。少しだけ勇気を出して、蛾について知ったり、じっくり見つめたりすると『こんなにきれいな模様なんだ』と、価値観が変わっていく。その瞬間の表情の変化を見ると、原体験は大事だなと実感します」(斎藤)

幼児期から低学年の原体験は、人格形成のベースになる。「Play Earth Park Naturing Forest」は、こういった子ども向けの体験を中心に置きながら、「もっと長い時間軸にまたがる体験を提供し、来場いただくすべての人の行動や価値観が少し変わるきっかけになってほしい」と野村は話す。
「同じ場所に、幼稚園のとき、小学生のとき、中学生のときに訪れると、そのタイミングごとに見えるものや感じ方が変わっていく。その変化自体が成長の証しになるような場所になるとうれしいですね」(野村氏)
斎藤は次のように考える。
「私自身は、千葉県野田市の出身で三方を河川に囲まれ水と緑に恵まれた地域で育ちました。春から初夏にかけては庭のツツジがきれいだなと思い、秋の涼しさとともに金木犀の香りを感じる。日常のなかで日ごと、週ごとに変わる色や匂いに触れてきました。一瞬一瞬を五感で感じることが、今日もちゃんと生きているなと実感できる時間でした。
『Play Earth Park Naturing Forest』で雨の匂い、土の匂い、風の温度、虫の気配…そういったものを含めて自然として感じてもらいたい。その体験をきっかけに、『家の近くでは蝶々を見かけないね』『今年は蝉が鳴く音が聞こえないね』『公園の木も少しずつ色が変わってきているね』といったように、日常のなかで自然の変化を感じられるようになるといいなと考えています」(斎藤)
「できない理由」ではなく、「どうやったらできるか」
施設運営は、ゴールドウインにとって未知の領域だ。ゼロイチで体験型施設をつくる経験を持つ従業員がほぼいないなか、野村は、「現場のチームづくりが何より重要だ」と考えた。そこで右腕として浮かんだのが斎藤だった。2021年に事業本部スピード事業部部長に就任し部員のモチベーションを高め、それぞれの良さを引き出して事業改善につなげる斎藤の姿を野村は見てきた。現在の株式会社PLAY EARTH PARKのメンバーは約25人。自然体験の価値に共感している人、キャンプの企画が得意な人、子どもと接するのが好きな人といった、モノづくりや販売だけでは活かしきれないスキルや経験・価値観を持ったメンバーが集まっている。
チーム運営で、斎藤は2つのことを意識している。
「一つは、『できない理由』ではなく『どうやったらできるか』を考えること。
ゼロからのプロジェクトなので、できない理由は挙げようと思えばいくらでも挙げられます。でも、その先に1%でもできる可能性があるなら、『どうやって実現するか』に頭を使いたい。難易度は高いのですが、だからこそおもしろいプロジェクトになっていると思います」(斎藤)

もう一つは、「フラットな関係性」だ。
「組織には役職がありますが、持っている経験やスキルは人それぞれです。僕が持っていないものを他のメンバーが持っていて、そのメンバーが持っていないものを、別のメンバーが持っている。だからベースはフラットがいい。誰かの指示通りに動くだけではなく、それぞれの立場で『このプロジェクトをどうやって良くするか』を考えてもらう。僕の役割は、その中から何を選ぶかを決めることと、選んだことに責任を持つことです」(斎藤)
とはいえ、今はまさに「生みの苦しみ」のまっただなかだ。コンセプトを実際のプログラムや空間に落とし込む作業は、想像以上に思考を巡らせ、試行錯誤が必要で答えのない模索が続く。そういったなかで野村が大事にしているのは、「やっている側が楽しめているか」だ。
「子どもたちや来場者に、楽しい体験を提供しようとしているのに、作り手側が眉間にシワを寄せてばかりでは良いものは生まれないと思うんですよ。もちろん、工期や予算とやりたいことの兼ね合いなど、乗り越えなければならないハードルはたくさんあります。でもイベントで夢中になっている子どもたちを見て、自分たちも楽しくなってしまうような感覚。『大変だけど、やって良かったね』と思える瞬間を、できるだけ増やしていきたい」(野村)
斎藤も続ける。
「ゴールドウイン代表の渡辺や当社の木村(株式会社PLAY EARTH PARK 代表取締役社長)、野村から、失敗するなよとも絶対に成功しろよとも言われたことはありません。どんどん新しいことを考えてやってみなさいと背中を押してもらっている感覚に近いですね。もし、必ず成功しろと言われていたら、どうしても守りに入り、リスクの少ないことだけをやるという発想になっていたかもしれません。そうではなく、長期の投資として、未来をつくるプロジェクトなんだという共通認識があるから思いっきり動ける。
視座が低くなっているとスピード重視になり、間違った手順を踏むこともあります。そうすると野村がブレーキをかけてくれるんです。これでいいのかと悩むときは立ち止まって、これはPLAY EARTH PARKの事業のためなのか、ゴールドウインのためなのか、あわせて子どもたち、地域の未来のためになることなのかを考えて進んでいます」(斎藤)
野村一哉(のむら・かずや)
1966年生まれ。1990年当社入社、1991年仙台営業所スキー販売部を経て、2002年第一営業本部ゴールドウイン事業部販売グループ、2004年コールマン事業部販売グループ、2007年アウトドア販売本部販売一部大阪百貨店販売リーダー、2009年東京百貨店販売リーダー、2014年事業統括本部販売一部部長、2021年事業本部副本部長兼PLAY EARTH PARK推進室室長、2024年グローバルブランド事業本部副本部長兼PLAY EARTH PARK専務取締役、2026年総合企画本部副本部長 兼 PLAY EARTH PARK専務取締役(現任)
休日は、約35年間続けているフライフィッシングを楽しんだり、妻を誘って登山に行く。小学校、中学校、大学と野球部に所属。

斎藤洋史(さいとう・ひろし)
1983年生まれ。2006年当社入社、管理本部財務部財務グループを経て、2013年事業統括本部事業管理室事業管理チーム、2014年スピード事業部事業グループ事業チーム、2019年事業統括本部事業本部スピード事業部事業グループ事業チームリーダー、2020年第二事業本部スピード事業部事業グループマネージャー、2021年事業本部スピード事業部部長、2022年事業本部 PLAY EARTH 事業部部長、2024年 PLAY EARTH PARK 取締役事業本部長 兼 管理部長(現任)
中学校から社会人まで約14年間ソフトテニスをやってきた。趣味はガーデニングで、週末は観葉植物や庭の手入れをしながら、季節ごとの花々の香り、そこに来る虫の変化などを生活の彩りとして楽しむ。

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