山岳ツアーのプロ2人が語る、「モノ」と「コト」の交わりが生む新事業の推進力Goldwin Voices

(Vol.7前編)総合企画本部マーケティング部 藤村 充宏・北島 聡之

2026.02.06

写真左から、北島、藤村

長年の協業を経て、山岳旅行会社「アルパインツアーサービス株式会社(以下、アルパインツアーサービス)」が当社グループに加わったのは2025年4月のこと。グループ会社になる前から、当社のブランド名を冠するアクティビティ・ツアー等をともに展開してきましたが、子会社化によってどのように変わるのか、当社の長年の「モノづくり」とアクティビティ・ツアーなどの「コトづくり」を結びつけて、どういった進化を目指すのかーー。当社総合企画本部マーケティング部の藤村充宏と北島聡之の2人が、コト事業について語る前後編。

前編は、2人が立ち上げ期に関わった、遊びを通じて自然や環境との新しい関わりを生み出す「PLAY EARTH」プロジェクトについて振り返ります。

Index

ツアー企画で鍛えられた対応力と安全確保

藤村と北島の2人は、かつてアルパインツアーサービスで国内外での登山やトレッキングツアーを企画していたこともある山岳ツアーのプロである。2人とも企画営業を担当していたが、机上での提案書、見積書の作成だけでは終わらない。国内外の旅程管理主任者の資格を持ち、行き先の選定、現地との交渉、参加者募集から案内、そして現地にもツアーリーダーとして同行する。お客さまとともにフィールドに立ち、天候や体調に応じて計画を組み替え、無事に下山するまでが仕事だった。当時、ツアーの現場や山で鍛えられた対応力は、いまも2人の武器として残っている。

最初は“好きな山に仕事で行ける”という想いで始めた仕事だったけれど、現地に出ていくにつれて、この仕事の重みに気付きました。山岳ツアーを主催するということは、お客さまの命を預かるということなのだと痛感していきました。

北島

私は子どものころから両親に連れられ山を登り、高校では山岳部に所属し自然は常に身近な存在でしたので、自然の中に身を置く仕事への憧れからこの仕事を選びました。仕事として山に関わり、意識が大きく変わったのは、登山ガイドの資格を取得してから。プロとして安全をどう設計するかをつねに意識するようになりました。

一説によると“トラベル(Travel・旅)”の語源はトラブルだと言われているくらいだから。ツアーではケガをする人がいたり、天候が悪くて登れないなど、“ハプニングが起きて、それを乗り越える”の繰り返し。そういったときでも、北島は自分にはない緻密さを持っていて、先回りして安全を確保してくれて心強かったですね。

北島

藤村さんは、お客さまの心をつかんでグイグイ引っ張っていく。自分にはできないことだから憧れていました。

戸惑いは現場で解決

2人がアルパインツアーサービスの従業員だったころ、ゴールドウインとの仕事で思い出深いことがある。

一番思い出深いのは、2000年頃のマーケティング施策で担当したツアーです。日本のロングトレイルの第一人者、故・加藤則芳(没2013年)氏と、ヨセミテ国立公園内のジョン・ミューア・トレイルを歩くツアーでした。2000年は、山の極限の環境に対応できる「ザ・ノース・フェイス」の“サミットシリーズ”が発売された年です。このツアーを案内するために買ったサミットシリーズのインナーダウンは、20年以上世界中の山旅で着用し、今も大切に取ってあります。

北島

私は、「ザ・ノース・フェイス」の各店舗で実施していた日帰りツアーの企画それぞれに思い出があります。「水源を巡る旅」「地図の読み方」などさまざまなテーマで企画していました。フィールドでの体験を通して、ゴールドウインがお客さまにどのようなメッセージを伝えたいのかということについても、理解するきっかけとなりました。

ゼロイチでつくりあげた期間限定「GOLDWIN PLAY EARTH PARK」の体験コンテンツ

GOLDWIN PLAY EARTH PARKに設置した遊具の一部

当社では2020年から、強みのモノづくりに加えて、コト(体験価値)の提供と環境問題への対応を重視する姿勢を強めている。2021年からは、スポーツの起源である遊びを通して、自然や環境との新たな関わりを生み出していく「PLAY EARTH」(=地球と遊ぶ)をコンセプトに掲げている。続く2022年は、当社のコトづくりのスタート地点ともいえる重要なターニングポイント。「PLAY EARTH」プロジェクトの最初の大型コト企画として、東京ミッドタウン(東京都港区)の芝生広場に期間限定の公園空間「GOLDWIN PLAY EARTH PARK(ゴールドウイン プレイアースパーク)」が展開された。当社に入社して間もない2人に当時託されたのは、この「GOLDWIN PLAY EARTH PARK」のメインコンテンツとなる、都市のまん中で自然を感じられるような子ども向けワークショップの企画から運営までを、コトづくりのプロとして成功させることだった。

北島

地球を構成する要素「地、水、風、空、火」をテーマにアーティストの方々がデザインした、これまでにない斬新な遊具が設置されました。それらの遊具を活用しながら、子どもの好奇心と想像力に働きかけ、都市における自然との関わりを考えられるような、体験型のワークショップやイベントを企画し、当日のオペレーションまでチームでやり切った大仕事でしたね。

GOLDWIN PLAY EARTH PARKに設置した遊具で遊ぶ子どもたち

自分たちのチームだけでなく、さまざまな部門の多くの従業員がこのプロジェクトの運営に携わり、ともに現場での達成感を醸成できたことも印象的でした。企業のなかでの縦のつながりと横のつながりを最大限生かしてプロジェクトを成功させることがどういうことか、腹落ちもしました。部門を越えて一緒に達成したという実感が、その後のコト事業を本格化していくなかで、大きな推進力となりました。

北島

そうですね。子どもたちのはじける笑顔を通して、コトづくりを進めるうえでもっとも大切な「安全管理」についても、頭だけでなく実感としてみんなで共有し合えた気がします。

ガイドラインを策定しコトづくりに本腰

2025年4月にアルパインツアーサービスが当社グループに加わったことで、新たな展開が始まった。これまでは、アルパインツアーサービスをはじめとする外部企業に主催を依頼していたツアーも多かった。これからはグループ内のシナジーを追求し、よりスピード感を持って内製化を積極的に進められる。主催イベントやツアーで、コトづくりからもう一歩進んだコト事業へと前進することができる。北島は現場担当者に寄り添い、企画から告知、運営までのノウハウを伝えている。

北島

山や川など自然のフィールドでのイベントやツアーはどうしても危険が伴います。主催するとなればより大きな責任が出てくる。そこで、安心して安全にお客さまに参加していただけるように、社内のコト事業に関するガイドラインを作ることになりました。2025年4月から、販売本部においてパイロット店舗を決めて、ガイドラインに沿ってアクティビティを伴うフィールドイベントを主催しています。店舗で、モノだけでなくコトも販売していく。主催であれば、イベントやツアー参加者のデータが蓄積され、モノとコトを掛け合わせた事業戦略が可能になります。

売上げの拡大だけが、店舗主催のイベントやツアーの目的ではない。これは、当社が2024年に掲げた「人を挑戦に導き、人と自然の可能性をひろげる」というパーパスの体現でもある。

最終的に店舗は製品を売る場所というだけでなく、人と自然とをつなぐハブになるのが理想だと考えています。具体的には、店舗が地域の自然やフィールドを理解し、地元のガイドさんや観光事業者、その地域に暮らす方々とつながり、アウトドアを楽しむ人が集まる場としての役割を担うことです。最初はファッションやギアとして製品を探しに来られたお客さまが、店舗主催のトレッキングイベントを知る。興味はあるけれど、ひとりではなかなか踏み出せないお客さまの背中を押す。山登りを始めるきっかけをつくるには、店舗が主体となりイベントを開催することが大事なんです。イベントを企画するにはそのフィールドのことをしっかり知る必要があります。さらに、主催するイベントに店舗スタッフが自ら同行し、フィールド体験を重ねれば、自然のこと、山のことに詳しくなります。そうなれば、たとえば登山靴を求めてお店に来られたお客さまによりベストな提案ができるようになっていく……。これが、私たちが考えるモノ事業とコト事業の融合の理想形です。


続きの対談後編「国立公園を舞台に官民連携で見えた、コトづくりを通じた地域活性化の可能性」では、コト事業を進めるうえで重要な安全管理の社内文化への定着や、国立公園プロジェクトについて2人が語ります。

(後日公開予定)


藤村充宏(ふじむら・みつひろ)

1974年生まれ。登山ツアーの専門旅行会社勤務を経て1999年からアルパインツアーサービス株式会社で国内外のトレッキングツアーの企画、販売、引率などに携わる。2021年当社入社、マーケティング部フィールドイベントチーム、2022年PLAY EARTH事業部、2023年PLAY EARTH事業グループ、2025年マーケティング部イベントグループでコト事業を推進。アルパインツアーサービス勤務時代には30カ国近くの山旅をご案内した。祖父に連れられ、イノシシ狩りや海釣りなど活発な幼少期を過ごし、学生時代にはカナダやアメリカの国立公園をキャンプで巡る一人旅や、モンブランやキナバル山などの山に登るなど、アウトドアにどっぷり浸かった生活を送る。最近は季節の移り変わりや身近な自然との触れ合いを大切にしながら近所でのウォーキングや神社仏閣を巡ることに楽しさを見出している。

北島聡之(きたじま・としゆき)

1981年生まれ。登山ツアーの専門旅行会社勤務を経て2008年からアルパインツアーサービス株式会社で国内外のトレッキングツアーの企画、販売、引率などに携わる。2021年当社入社、マーケティング部フィールドイベントチーム、2022年PLAY EARTH事業グループ、2023年環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室出向、2025年当社に戻りマーケティング部イベントグループで藤村とともにコト事業を推進。親の影響を受け、高校時代から本格的に登山をはじめる。大学2年の時にオリエンテーリングの世界ジュニア選手権に日本代表として出場。登山に限らず、自然を感じるための手段として様々なアウトドアアクティビティを家族や友人と日々楽しむ。

記載内容・役職や所属は取材時点の情報です。
また、当記事は、株主・投資家の皆さまに当社をご理解いただくことを目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。

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