富山から世界へ、生産技術部が守る「モノづくりの根幹」Goldwin Voices

開発本部 生産技術部長 宮下 誠一

2025.11.14

当社の富山本店(富山県小矢部市)には、生産技術の中枢機能が集まっています。ここで静かに、着実に積み上げられた技術と改善の積み重ねが、「ゴールドウイン(Goldwin)」や「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」をはじめとする当社製品を支えています。トップアスリートの活躍を下支えするモノづくり、製品の機能美と審美性を追求する富山本店の日々の仕事について、開発本部生産技術部長の宮下誠一が語ります。

Index

マザー・ファクトリー富山本店の役割

「田んぼが広がる景色の真ん中に、ガラス張りのピカピカのビルが要塞のように建っていた」と、宮下は眼を細める。富山県氷見市出身の宮下は大学進学で東京に出たものの、就職先は地元と決めていた。1989年、就職活動で初めて富山本店を訪れたときの印象を、宮下は冒頭のように鮮明に覚えている。
「地元に、すごい会社があるものだと衝撃を受けました」(宮下)

富山本店の生産技術部は、単なる「試作工場」ではない。同じ敷地内にある研究開発施設「ゴールドウイン テック・ラボ(GOLDWIN TECH LAB)」で研究された最先端の機能を付加したトップアスリート用のウエアなど、特殊技術を要するウエアや新しい技術を用いた量産品などを実際、生産している。国内外の工場に対して縫製技術や生産プロセスに関する指導を行うほか、生産現場の問題解決や効率化なども行っている。つまり、マザー・ファクトリーとして、海外の生産工場で量産できるように形作るのも生産技術部の務めだ。

「富山本店での実際の生産量は全体の1%未満と、数量的には非常に少ないものです。私たちの役割は、高付加価値な製品を正確に縫製できる技術を積み上げること。まずはここでトップレベルの製品を仕上げ、富山本店でつくるクオリティと同じレベルで海外の生産工場で量産できるように、現地工場でしっかり指導しています」(宮下)

修理品から得られる貴重な製品改善データ

1990年代にスタートしてから続いているリペアも、生産技術部に設置されたリペアチームで対応している。修理依頼は年間約2万点にのぼり、そこにはユーザーのリアルな使用実態が映し出される。2025年6月からは、衣類やテント、寝袋を修理したあと、専門業者によるクリーニングを施し、次のシーズンまで温度や湿度に配慮して保管する「クリーニング・ストレージサービス」も始まっている。

「リペアサービスは、ただ修理するだけでなく、未来の製品改善にもつながっています。たとえば、負荷がかかって壊れたバックルがリペアセンターに送られてきたとします。もちろん、製品化の時点で基準値を満たした強度のバックルを使用していますが、想定外の壊れ方をすることもあります。同じアイテムで同じ箇所のバックル修理が必要なケースが続いたら“アラート”を鳴らして、即座に関係者を集めて、何が問題なのか検証し、強度を高めた部材に変更するなどその後の製品開発に反映するようにしています」(宮下)

修理データは次の製品開発へとフィードバックされ、つねに耐久性や快適性の向上が図られている体系を試行錯誤しながら確立している。

研究開発部門との「往復」で、迅速に試作から量産へ

富山本店には、研究開発部門・設計部門・生産部門・調達部門・品質管理部門が一堂に会する。そのため、「つくったものをすぐに関係者同士で確認できるのが大きな強み」と宮下は考える。開発案件の依頼がくると生産技術部はすぐに試作品をつくり上げる。強度試験や着用試験などを行い、設計、調達、「テック・ラボ」など関連部門へフィードバック。何度もこの往復を繰り返し、製品は完成に近づく。

「単純な流れで製品ができることはほとんどない。試作と検証を何度も繰り返しながら、関係部署が一丸となってゴールを目指していきます。研究や設計、生産が距離的に離れていると、当然ですが確認や修正に時間がかかります。でもここでは即座に集まって、意見を出し合い、改善できる。トライアンドエラーしながらの改善速度がまるで違います」 (宮下)

最終的なゴールは「より美しく機能的な製品を世に出す」こと。途中経過で部署ごとに意見が違っても、目指す場所は同じだという共通認識があるからこそ、各部門が衝突することなく呼吸を合わせて進んでいける。富山本店での試作と改善を経て完成された技術は、海外工場での量産につながる。

「生産技術部には、ブランドごとに技術検証を行う担当者がいます。新しい技術の場合、まずはその担当者自身が技術を習得し、他者指導できるレベルになる。その後、海外工場に出向いて技術を伝えるという流れです。一方、技術が属人的にならないよう横の共有も徹底しており、ブランドを超えて誰でも対応できる体制も作っています。この横連携があることで技術の再現性が高まり、どの工場で生産しても当社が目指す品位・品質を保てるようにしています」(宮下)

宮下は1997年から2000年にかけての東京勤務で、営業や店頭の声を直接感じ取ったことがある。

「納期が重要だということは頭ではわかっていても、富山本店にいると直接的に肌で感じる機会は少ないんです。東京勤務当時、納期が遅れて本来、当社製品が陳列されるべき棚のスペースを他社に取られる現実を目の当たりにして、製品納期に関する重要性を肌で感じることができました。それからは、品位・品質の向上とコスト削減とともにさらなる製品納期厳守に注力してきました。このときの経験も活かしながら現在の生産技術部の体制づくりを進めています」 (宮下)

若い力を取り込みながら技術を底上げ

現在、生産技術部には約150人が在籍している。ベテランが多い一方で、ここ数年は高校卒業後に入社する若い社員の採用にも力を入れている。

「生産技術部全員がプロフェッショナルになるよう、技術力の底上げを図っています。多くの日本の生産工場がそうであるように、もともと多くの技術は口伝えで人から人へ教えられてきました。この属人的な人技術伝承ではなく動画を応用した研修システムの導入を検討し、研修プログラムの体系化を進めています。各技術に応じた研修プログラムを確立することで、新卒もキャリア採用者もそれぞれのレベルにあったところから研修をスタートできます。婦人子供服製造など縫製関連の国家資格取得も推奨し、個々人のレベルアップにつなげています」(宮下)

宮下の周りでは、年齢や所属に関係なく、スタッフとの談笑が見られる

熟練者の技と若い力が交わることで、伝統と革新が絶えず循環している富山本店。宮下はここを「世界中のどこにも負けない生産拠点にしたい」と意気込む。

「事例をあげると、レインウエアのフード部分の縫い目にテープを貼るとどうしても凹凸ができ、曲線が美しくならないという課題がありました。なかなか解決できない難問です。その難問を解決するために関係者で検討を重ね、丸みを出すための方法や技術を学び、それらを応用して試行錯誤を繰り返し、フード部分の曲線シルエットが格段によくなりました。

一人ひとりに、技術だけでなく、よりよい製品をつくりあげたいというモチベーションとプライドを持ってもらいたい。トップアスリートが製品を着用して活躍する姿を見たり、売り場で製品を目にしたとき、この製品には自分の力が活かされたのだと誇りを持てるような人材に育てることが、私の役目だと感じています」(宮下)

生産技術部一人ひとりの地道な工夫と努力が日々積み重ねられ、製品の信頼と美しさにつながっていく。

宮下誠一(みやした・せいいち)

開発本部生産技術部長
1967年富山県氷見市生まれ。1990年トヤマゴールドウインに入社しアウトドアブランドの資材担当。1997年にゴールドウインに出向、2000年に富山本店に戻る。2003年、調達管理部管理グループ、2014年ゴールドウインテクニカルセンター業務推進室マネージャーを務める。2020年、ゴールドウインに統合、商品本部商品部長に就任。2023年、商品本部生産技術部長に就き、2024年から開発本部となり現職。海からの立山連峰を眺めるのが癒し。小学校時代は野球、中学・高校でバレーボール、大学でテニスと球技が得意。

記載内容・役職や所属は取材時点の情報です。
また、当記事は、株主・投資家の皆さまに当社をご理解いただくことを目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。

これまでのGoldwin Voices

2025.10.17

感性と理論の両輪、研究開発拠点「テック・ラボ」の真髄

2025.09.26

「変わらない価値があるから、変革できる」開発・生産責任者の視点

2025.09.01

数字だけでは伝えきれない「ゴールドウインの現在地と未来志向」を発信